先日、「台所に焼き肉の臭いが染み付いてきたから、脱臭効果のある空気清浄機が欲しい!!!」という妻の熱い要望を受け、電化製品を見に行ってきました。
空気清浄機コーナーに行くと、目についたのは、相変わらず多い『マイナスイオン』関連商品です。「マイナスイオンは、健康や美容に良い」と思っている方が多いのですが、それは大きな間違いです。
今では、マイナスイオンは『ニセ化学』の代表的な存在です。そもそもマイナスイオンという言葉、科学用語ではありません。ただの造語です。このネーミングセンスには脱帽です。うまいですよね。一見すると、科学用語のように誤解します。
マイナスイオンブームを彩る、めくるめくウソの数々
そもそも、『マイナスイオン』は、1900年代末から2000年代前半にかけて、疲労効果・美容効果・精神安定効果など、いろいろな健康増進効果をもたらすとブームが起こりました。
ブームに火のついたきっかけは、1999年から2003年にかけて放送されていた情報テレビ番組『発掘!あるある大辞典』で、マイナスイオン特集が組まれたことからでした。
ちなみに、『発掘!あるある大辞典』は、データ捏造が発覚して、2007年1月に急遽打ち切りとなりました。個人的な見解ですが、テレビの情報番組には、多かれ少なかれ、何かの意図が働いているように感じます。テレビ業界の運営費がスポンサーから出ているという構造上、スポンサーの意図が含まれるのは仕方の無いことなんでしょうが・・・。
『マイナスイオン』の発生源も、滝や森林、トルマリン、プラズマ放電、コロナ放電などいろいろなものがありました。当時はニュースなどでも、マイナスイオンを浴びるために山に登り、滝の近くでマイナスイオンを浴びている映像が頻繁に放送されていたのを思い出します。
家電のほかにも、衣類やタオルなどの繊維素材、マッサージ器やドライヤーなどの健康機器・美容機器・芳香剤・消臭剤などの日用品。自動車用品、パソコン関連製品など。無節操に世の中に普及していきました。挙句の果てには、置物や装飾品、印刷物にまでマイナスイオン効果があるという商品まで。
これらは、実際にマイナスイオンを発生させず、完全にだまし商品と言えます。そんな中、2003年8月に某健康器具が、薬事法違反に問われます。
続いて、2006年11月には、複数の企業が景品表示法に基づく指導を受けます。
そして、2008年2月に19社が公正取引委員会によって排除命令を受けます。
こういった違反行為や行政の指導によって、マイナスイオンの効果は誇大広告であったことが証明されることとなり、多くの商品が姿を消します。
ただ、現在でも一部の家電業者は、エアコン・扇風機・加湿器・除湿機などをマイナスイオン機能付きとして、名前を変えて販売しています。
そんな中、現在もマイナスイオン機能がもっとも備わっている家電と言えば、ヘアドライヤーです。
あなたのドライヤーにも!?
メーカー各社の『独自マイナスイオン』効果
女性にとって髪の悩みと言えば、肌の悩みと同等に深刻なものです。そのため、「少しでも髪に良いものを」と考え、購入される方が多いです。
そのことはメーカーも分かっており、2011年度の国内販売数580万台のうち、7割以上がイオン機能付きのヘアドライヤーと言われています。
ちなみに、大手の家電メーカーは、マイナスイオンにそれぞれ独自の名称をつけています。
パナソニック:ナノイー
シャープ:プラズマクラスターイオン
東芝:ピコイオン
日立:ナノイオン
さすがに、以前のブーム時のように、健康全般に効果があるとは書いてありません。
各メーカーのホームページやカタログには、「髪の水分バランスを整える」「キューティクルを引き締め」「艶のある髪に」などの表現が使われています。さらに、「皮脂をケア」「地肌にうるおいを与える」など。
根拠としては、放出されたイオンと結合した空気中の水分子が髪の毛としっかり結びつくらしいです。そして、その結果、髪や地肌にいい効果をもたらすらしいです。
残念ながら、この根拠については私は専門外で、よく分かりません。でも、シャンプー開発に携わっている身としては、たかだかマイナスイオンでここまでの効果があるとは到底信じることができません。
また、『信じられない根拠』としては乏しいのですが、私の疑惑を増幅させる事件があったのです。それはちょうどマイナスイオンがブームのとき、東京で行われた、とあるセミナーに参加したときのことです。
その時、座った席のとなりの方が偶然にも某大手家電メーカー技術関係の役職者の方でした。休み時間にしていた雑談の中で、「マイナスイオンの効果について本当のところどうなのか?」と聞いてみました。すると、その方は、「あ~、あんなのウソウソ。効果効能との関連性もないし、実際にそんな効果ありませんよ。」と赤裸々に語ってくれたのです。
また、「でもね、こういったブームに乗らないと家電なんて売れないでしょ。周りがやりだしたら批判するより乗っかるほうが得策なんですよ。」とのこと。
この話を聞いて、「やっぱりな。」と納得すると共に、「美容業界と似ているな~。」と残念な気持ちになったものです。
こんなことを思い出していたら、こんな記事を見つけました。
2012年7月に東京都生活文化局が、大手家電メーカーが製造するイオン機能付きヘアドライヤーに対して景品表示法に基づいた改善を要請した。
対象となったのは、パナソニック、シャープ、日立、東芝の4社。根拠となっているデータが、一般消費者の使用方法とあまりに乖離した条件で行われているため、効能や効果について「消費者の一般的な使用方法に即した実験を行うこと」を要望している。
参照:東京都 報道発表資料[イオン機能付きドライヤーの実証試験についてメーカーに改善要請しました] より
「一般消費者の使用方法と違う」という、根拠となった実験を見てみると・・・
冷風モードで20~30分使用などの条件で行った実験結果が効能効果として表示されています(4社中3社)
確かに、ドライヤーを冷風モードで20~30分使うのは、一般的ではありませんね。ちなみに、私は、冷風モード自体使いません。
実証試験を行った被験者が一人だったケースもあります(4社中3社)
こんなの試験とは言えませんよね。多くの人に実験を行ってもらって、自分たちに最も都合のいい効果を選んで根拠にすればやりたい放題です。限りなくだましに近い手法です。
使用後に頭皮の皮脂が減少したとしていますが、それがイオン効果であるかは実証されていない(4社中2社)
実証できないことを、効果効能として表示するとは・・・。これって完全にアウトですよね。
結局、カタログに掲載されている効果は、通常の使用環境では発揮されないケースがあるということです。また、こうしたマイナスイオンによる効果効能は、公的基準も無く各社の判断で独自に検証しているのが実態です。
このような大手でも、大した検証もせずに消費者をだます行為を平然とすることに驚きます。もしくは、大手だからこそ、そのネームバリューで怪しい実証実験をカバーするような手法を好むのかもしれませんが・・・。
『ナノ化粧品』、『オーガニック化粧品』、『無添加化粧品』も同じ・・・
化粧品業界で言うと、『ナノ化粧品』『オーガニック化粧品』『無添加化粧品』『新開発された美容成分』『パラベン危険』などと同じ構造ですね。
しっかりと実験をし、根拠を持っている会社(商品)もあるのですが、自社にとって都合のよい無理やりな実験結果によって事実を捻じ曲げ、消費者の期待を煽る会社(商品)もたくさんあります。実際に効果がないにもかかわらず、あるように装い、一部のプラシーボ効果で得られた使用者の声を大きく取り上げ、さらに消費者を期待させる。
その連鎖によって、売り上げを飛躍的に伸ばす。
そして、そこにマスコミも乗っかる。まぁ~、マスコミの場合は、これが仕事の部分もありますからね。
今のような不景気では、虚偽の情報でも、消費者の興味をそそるもの、自社の利益になるものは放送せざるをえないのでしょうが・・・。全番組通販化が進む昨今、多少怪しいものでも、よく調べずにどんどん放映していくんでしょうね。
大体、ブーム自体が、自然発生するものではなく、どこかの誰かが仕掛けたものです。つまり、ブームに乗っかった人が少し損をして、ブームを仕掛けた人が大儲けをする。
ブームには、良いも悪いもありません。「何となく良さそう」レベルで流行るものがたくさんあります。もっと言えば、「何となく良さそう」という印象を与えるものの方が、売り手にとっては都合が良いんでしょうね。
そういった意味では、マイナスイオン関連商品というのは、最高の商材だったのでしょう。ただ、予想外だったのは、あまりに流行りすぎて、化けの皮がはがれたことです。
今人気の『化粧水前に使う化粧品』や『炭酸系化粧品』もマイナスイオンと同じように見えます。何となく良さそうですが、明確な根拠がありません。
ブームなだけの商品には、くれぐれも気をつけてください。
投稿日:2014.02.14