「寝ている間に勝手にダイエット」などと根拠がない表示をして健康食品を販売したのは、景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、消費者庁は5日、健康食品製造小売業・コマースゲート(東京都渋谷区)に再発防止を命じる措置命令を出した。対象商品は「夜スリムトマ美ちゃん パワーアップ版」。消費者庁によると、同社は2011年12月から、自社サイトや雑誌、新聞折り込み広告などで「寝る前に飲むだけで努力なし!?」「満足度97%」などと表示。今年9月までに約154万個、約50億円を売り上げた。広告には「子どもを4人産んだ」という女性が「91キロがここまでスッキリ」とする体験談も写真つきで紹介されたが、同庁は根拠がないと判断した。同社は「真摯(しんし)に受け止めて対応する」とコメントしている。(引用元:朝日新聞デジタル )
『夜スリムトマ美ちゃん パワーアップ版』とは、「飲むだけで痩せる」という効果を謳ったものだそうです。
今まで、色々な『何もしなくても痩せる健康食品』が発売されました。しかし、消費者が望むダイエット効果があったものはひとつもありませんでした。まぁ、当然と言えば当然です。
食べる量を減らすことなく、運動もすることなく、健康食品を食べるだけで痩せるわけがありません。もし、そんなものがあるとすれば、それは健康食品ではなく、『毒』です。いつも通りに食事を食べているなら、健康食品を追加することで少なからずカロリーを摂取するのですから、その分、さらに太ってしまうのではないでしょうか。
でも、『夜スリムトマ美ちゃん パワーアップ版』は、爆発的に売れました。わずか1年9ヶ月で154万個の販売です。売り上げ金額は脅威の約50億円です。健康食品としては大成功でしょう。発売元の株式会社コマースゲートの社長は、さぞかし喜んでいたことでしょう。この報道があるまでは・・・。
それにしても行政指導が入るような健康食品が、なぜ、こんなに売れたのでしょうか?
今回は、その理由と騙されない方法をお伝えします。
『夜スリムトマ美ちゃんパワーアップ版』が爆発的に売れた5つの理由
多くの人は、何もしないでやれるような都合の良いものは無いと分かっています。でも、「もしかして・・・」と期待してしまいます。
私たち人間は、弱い生き物です。特に、食べるという人間の3大欲求を制御するのは、非常に辛いものです。
肥満の人は、そもそも食べ物の誘惑に弱いために太っています。だから、分かってはいても、なかなか止められないのです。
私自身も常にダイエットには苦労しているので、その気持ちがよく分かります。ただ、私の場合は、仕事柄、一般の方よりも正しい情報が入ってくるためにこういった健康食品に頼ることは無いだけです。でも、日々、ダイエットに思い悩んでいて、情報がなければ、甘いささやきに負けてしまうかもしれません。
つまり、発売元は、悩んでいる人が夢見ている効果、心の底から望んでいる欲求を叶えるキーワードをささやけばいいのです。それが本当かウソかは、発売元にとっては大した問題じゃありません。
痩せたい方にとっては、「何もしなくても、寝てるだけで痩せる」というのは、魔法の言葉です。ウソだという気持ちより、信じたい想いの方が上回ってしまいます。そのため、この商品は爆発的に売れたのでしょう。
もともとダイエット効果の無い商品は、最初は売れても、その内、『効果が無い』ことがバレます。インターネットは情報の伝達が早いので、こういった口コミは一瞬にして広がります。実際に、某大手質問掲示板では、事件発覚前に指摘している投稿がいくつもありました。
では、発売元はそれに対抗するために何をしたのか?
発売元のサイトには、芸能人がたくさん出ています。ブログでも、モデルたちが『効果があった記事』を連発しています。(昨日の措置を受け、もう削除されているかもしれませんが・・・。)こうして、有名人の間で、大量のポジティブな口コミを発生させます。そのために芸能人・モデル・スポーツ選手を大量に使っています。
この中には、2012年のペニーオークション詐欺事件がきっかけで、露出を減らしていたモデルさんが・・・せっかく最近復活宣言したのに、またこんなことをして大丈夫なのでしょうか・・・。
私たちは、人が信頼しているものは同じように信頼をする傾向にあります。一番信用するのは家族でしょう。次に、親しい友人。その次に、知り合いや商品を使った人たち、芸能人・モデルなど有名人が入ります。その心理を利用して、消費者に宣伝と気付かせない宣伝方法、いわゆる『ステルスマーケティング』を企業はよく使います。
ただ、ペニーオークション詐欺事件以降、芸能人やモデルは仕事として記事を書いたり、発言していることが周知の事実になりました。つまり、お金をもらってその見返りとして商品を褒めているのです。中には、良いと本当に思ってそれを伝えている記事もあるかと思いますが、宣伝しているからと言って、その商品を本当に使って効果が出たわけでもなければ、愛用しているとも言い切れません。
でも、有名人を使うことでこんなに売れるということは、まだまだ一般的には、『有名人の口コミの大半は広告だ』とは認知されていないのでしょう。
この商品の開発には、『美容スペシャルアドバイザー』なる人が関わっているそうです。その人の肩書きには、エグゼクティブヘルスアドバイザーという経歴が書いてあります。
私はこの肩書を初めて目にしました。「私が不勉強だったかな・・・」と思い、あれこれ調べたり、健康食品の関係者に聞いてみましたが、一向にその実態はつかめませんでした。
最近は、こういった大層な肩書きや、大したことのない(簡単に取れて、それっぽく聞こえる)資格を前面に押し出しているメーカーが増えていますので、これもその一つかもしれません。
こうした肩書以外にも、例えば大学教授であったり、医師などの肩書きを見ると無条件に信用してしまいます。でも、実際は、自分の専門分野は詳しいのですが、それ以外は知識が無い場合が多いんですけどね。
そもそもこのエグゼクティブヘルスアドバイザーという仕事をしているなら、発売元コマースゲートの社長に、「寝ている間にダイエットなんて、根拠のないウソを言ったら、消費者庁から行政指導が入りますよ」、と助言してあげたらよかったのに、と思いませんか?一体、何をアドバイスしていたのでしょう・・・。
このように、私たち日本人は肩書きに弱い、ということもこの商品が売れた理由なのでしょう。
発売元のサイトには、品質保証三冠達成と書かれて、『安心安全マーク』・『健康食品GMP製品マーク』・『モンドセレクション金賞受賞』のラベルが貼られています。
まず、日本サプリメント評議会が運営するという『安心安全マーク』の公式サイトには、
私たちは安全性を尊重するメーカーと消費者との架け橋となるため、サプリメントの評価活動を行なっています。評価製品をより多くの消費者に知っていただき、“安心で安全なサプリメント”を健康維持に役立てていただくための目印として考案されたのが、この「安心安全マーク」です。(日本サプリメント評議会サイト「安全安心マークとは」)
と、書かれています。今回の件で、主旨通りになっていないことが残念ながら実証されました。
次に、日本健康・栄養食品協会の『健康食品GMP製品マーク』の公式サイトには、目的として、
原料の受け入れから最終製品(または基原材料の受け入れから原材料)の出荷に至るまで、適切な管理組織の構築及び作業管理(品質管理、製造管理)の実施(GMPソフト)と、適切な構造設備の構築(GMPハード)により、製品の品質と安全性の確保を図ることです。
(日本健康・栄養食品協会サイト)
と、書かれています。
・・・メーカーや工場からしたら、こんなことは当たり前のことだと思うのですが・・・。逆に、こういったことを守らずに製品を製造していたら、大問題です。健康食品を扱うなら、この程度のことは声高に言うことじゃないなぁ、という印象です。
最後に、モンドセレクション金賞受賞。以前に書いた記事を参考にしてください。一言で言えば、よっぽどひどい商品じゃなければ、少ない予算で受賞できる賞です。
これも、『爆発的に売れた理由その3』と一緒で、権威付けが目的だと思います。
私たち日本人は、こういったマークや賞にも弱いんですよね・・・。無条件で、「なんだかすごい!」と信用してしまう傾向があります。
でも、今回の件で判明した通り、この3つは消費者の利益・安全性を守る効果ではありません。守っているような気にさせてくれるだけではないでしょうか。
この商品は、「トマトに含まれるリコピンに、ダイエット効果がある」と主張しているのですが、私にはその根拠を見つけることが出来ませんでした。
「私の検索能力が低いのか・・・」と思い、いろいろ調べてみました。すると、京都大学が「トマトから脂肪肝、血中中性脂肪改善に有効な健康成分を発見:効果を肥満マウスで確認」という記事を見つけました。
簡単に言うと、トマトに含まれる13-oxo-ODAという成分がマウスの中性脂肪の上昇を抑制したという内容です。まさかとは思いますが、この発表を根拠として、「トマトと言えばリコピンだろう!だから、リコピンにダイエット効果があることにしよう!」なんてねじ曲がってしまったのでしょうか・・・。
しかも、『夜スリムトマ美ちゃん パワーアップ版』には、ダイエットができる理由に、『酵素』までプラスしています。
酵素とは、たんぱく質の一種で、私たちの身体に必要不可欠な成分です。例えば、胃の中で消化する酵素や、エネルギーを生む酵素などとして、体内ではさまざまに働いています。
これを補うことで、「消化を促進しダイエット効果がある」という理屈なのかもしれませんが、前述の通り、酵素は単なるたんぱく質ですから、摂取したところで、アミノ酸に分解されるだけにすぎません。酵素を摂ったからと言って、体内の酵素と同じ働きをしてくれるわけではないのです。
しかも、酵素は酸に弱く、いくら食べても胃で完全に分解されます。もっと言うなら、酵素は熱にも弱く、錠剤にするときは発生する熱で全部死んでしまいます。
つまり、野菜や果物の酵素は、人体には何の効果も無く、錠剤やドリンクに配合する際に熱によって死滅します。高熱に耐えても、我々の胃の酸で溶かされます。
つまり、トマトのリコピンにも酵素にも、何のダイエット効果もない、というわけです。
余談ですが、『夜スリムトマ美ちゃん パワーアップ版』の成分表を見ると、着色料(ビート色素)が入っています。本当にトマトが入っているなら着色料なんて入れる必要なんてありませんよね。なんだかいろいろとごまかされている気がします。
少しの真実を織り交ぜることと、過剰な誇張により、「なんとなく良さそう」と思わせたことが、爆発的に売れた理由なのでしょう。
それでは、ここから上記の理由を踏まえて、騙されない方法をお伝えします。この方法は、健康食品だけではなく、化粧品や、最近多い詐欺商材・商法すべてに当てはまります。
健康食品や化粧品の広告に
騙されないための5つの方法
自分にとってあまりに都合の良い話は、全部ウソです。
ダイエット商材の「何もしないで痩せる」「食べる前にこれを飲むだけで食べなかったことになる」
化粧品の「○○という新成分でしみ・しわが無くなり、美白になる」
詐欺商材の「寝ているだけで儲かる方法」
詐欺投資の「買えば必ず上がる」
など。
『払う対価』と『得られるメリット』があまりにかけ離れているものは、全部ウソだと思いましょう。
有名人は、タダで褒めることは絶対にしません。なぜなら、そんなことをすれば、自分が褒めた商品の業界から仕事をもらえなくなるからです。例えば、女優が自分の愛用している化粧品を褒めることはありません。そんなことをすれば、その女優には化粧品CMの仕事が来ないからです。CMはノドから手が出るほど欲しい仕事です。彼ら(彼女ら)は、その大切なチャンスを無駄にすることは絶対にしません。
逆を言えば、お金が発生すれば、どんなものでも褒めるということです。これは有名人だけでなく、最近のテレビにも言えることです。
だから、有名人の褒め言葉を全面的には信用しないようにしましょう。特に、健康食品・化粧品・お店の紹介は要注意です。
ここのポイントは、『すごそうな人』という点です。本当にすごい人なら信用してもいいと思います。でも、『すごそうな人』というのは、本当はすごくないので信用してはいけません。
例えば、皮膚科の医師が作った化粧品ってたくさんありますよね。
皮膚科の医師って、すごく肌に詳しい専門家です。肌に詳しいから、その肌に塗る化粧品にも詳しいと思いがちなのですが、実際はぜんぜん詳しくない人もいます。
化粧品は科学ですから、医学も同じ科学だと言えます。しかし、実際に医療行為(臨床)を行う医師免許を持っている人と、学術的な研究のみ(臨床をしない)研究者とは、専門分野が違いますから、詳しくなくても当然のことです。この場合、化粧品に対して医師はすごそうに思いますが、実はぜんぜんすごくありません。
そもそも、『すごそうな人』を出さないと売れない商品である可能性が高いのです。本当に価値のある商品なら、『すごそうな人』の力なんていりません。
もちろん本当にしっかりとしたマークや賞もあると思います。でも、よく見かけるマークや賞は、ほとんどが無価値なものです。その商品があたかもすごいもののように装うツールとして使われます。
とは言え、こういった機関はウソはつかないので、せめて検索して調べましょう。ちょっと公式サイトをのぞくだけで、「な~んだ、大したことないな」と分かります。大したことないマークや賞を誇らしげに自慢している商品やメーカーも大したことありません。胡散臭い権威付けをする商品も価値の無い証拠です。せっかくインターネットがこれだけ便利に使えるのですから、少し面倒かもしれませんがちょっと調べてみましょう。それだけで、その商品の価値が分かります。
上記④でも書きましたが、信じる前に調べましょう。今回の場合なら、『ダイエット効果 リコピン』と検索するだけで根拠がないことが分かります。たぶん、5分もあれば判明します。
私が調べた時には、『夜スリムトマ美ちゃん パワーアップ版』は、1箱2,980円です。という事はきちんと選択をすることができれば、5分で2,980円得することになります。時給に換算すると、35,760円です。すごい大金です。時給35,760円と思えば、検索する面倒臭さなんて吹き飛んでしまいます。
まとめ
私はインターネットが普及して、すごく良かったと思っています。というより、もし、インターネットが普及していなかったら、今の化粧品メーカーとしての自分はいません。
インターネットによって、あらゆる情報や商品を無料で広告できるようになりました。良い商品であれば、お金をかけなくても広めることができます。これは私のような吹けば飛ぶような中小企業レベルにとっては、夢のような状況です。『良い物を作れば、認めてもらえる世界』です。
でも、逆に、ウソや悪い情報・商品も広まりやすいです。むしろ、こういったものの方が売れている側面もあります。インターネットにお世話になっている身である私にとっては、これが歯がゆくてたまりません。
もっと行政機関が厳しく取り締まってくれればいいのですが、ここまでインターネットの規模が大きくなってしまうとそれも困難なのでしょう・・・。
だからこそ、使う側である消費者がウソや悪い情報を見抜く手段を学ぶ必要があります。ですから、今回の内容はぜひ、しっかりと読み込んでくださいね。
また、我々のような業界にいる側が、真実を語る必要があると思います。私はこれからもこうした発信をし、少しでもインターネットの世界が『良いこと』であふれるよう、微力ながら続けていきたいと思っています。これがあなたのお役に立てたなら幸いです。
投稿日:2013.11.11