週刊ダイヤモンド2016年9月3日号の中に、「ボディソープって、そんなにこだわりがないの?」と、私が驚いた記事がありました。
超敏感肌・乾燥肌の私は、体を洗う際には石けんを使います。その理由はここ『体を洗うならボディソープより石けんでしょ』で話したとおりです。ですから、「敏感肌はボディソープのほうがいい」という世の中の風潮には懐疑的でしたが、それをさらに後押しするような記事でした。
早速、中身を見て行きましょう。
『ライオンが8年ぶり新商品
ボディソープで狙う三つ巴』
日用品大手のライオンが実に8年ぶりとなる、新たな大型ブランドを投入する。(中略) 当面の目標は、3年後の2019年のシェア10%達成とトップ3入り。(週刊ダイヤモンド2016年9月3日号/ダイヤモンド社)
現在、ライオンは『植物物語』などのブランドを持っていますが、全て足し合わせてもシェア2%程度です。そこから、「10%までシェア拡大を目指す」とのこと。ここまでは、新商品発売の普通の記事です。
でも、今回ライオンがボディソープ市場を狙った理由が驚きです。形状や目的が近いシャンプーなどのヘアケア市場と比較して、その理由が語られています。
細かく見ていきましょう。
ボディソープは、消費者の関心が低い『低関与商品だから』?
トイレタリー業界において、ヘアケアは、香料と化粧品を合わせた造語『香粧品』のカテゴリーに属する。消費者が化粧品と同じく商品選びにこだわる傾向があるのに対して、ボディソープの方は、深く吟味せず手に取る『低関与商品』に位置付けられている。つまり、商品乗り換えが比較的起きやすいのだ。(週刊ダイヤモンド2016年9月3日号/ダイヤモンド社)
と記事にはあります。
シャンプーやコンディショナーなどのヘアケア商品に比べると、ボディソープが『低関与商品』というのは確かにうなずけます。「このボディソープじゃないとダメだ!」という声はあまり聞きません。
一般的には、ドラッグストアやスーパーなんかで、特売になっているものを買うという感じじゃないでしょうか?
ただ、だからと言って、「低関与商品が参入理由にはならないのでは?」と思います。商品に対する関心が低いから乗り換えが起きやすい、という事は、裏を返せば、自社の商品も乗り換えが起きやすいということです。
つまり、継続して使ってもらえないということです。その結果、価格勝負になって、品質や機能など、消費者のメリットを叶えにくい側面も出てきます。そのため、ボディソープ市場に力を入れる理由になりにくいと私は感じます。
ボディソープ市場のライバルが
それほど強力じゃないから?
ヘアケア市場には強大なライバルが国内外にたくさん存在します。
記事中には、化粧品ナンバーワン企業をはじめに花王やP&Gジャパンなどが挙げられています。それら大手に比べると、ボディソープ市場は手薄だからだそうです。
「ヘアケア商品には、その会社の顔となるブランドイメージが求められるため、大量の広告宣伝費が必要となり、コストパフォーマンスが悪い。」とライオン幹部。(週刊ダイヤモンド2016年9月3日号/ダイヤモンド社)
これは新規のお客さんを対象としているだけで、リピーターも含めた場合、コストパフォーマンスは非常に悪いと思います。企業ならもう少し長い期間で広告のパフォーマンスを判断した方がいいと思うのですが…。
「ボディソープの方が
ヘアケアより断然戦いやすい」から?
花王や資生堂、そして外資系に比べると、そうしても体力で見劣りするライオンにとっては、「ボディソープの方が、ヘアケアよりも断然戦いやすい」(ライオン幹部)というわけだ。(週刊ダイヤモンド2016年9月3日号/ダイヤモンド社)
まぁ~、確かにわざわざ強いところと戦う必要はないと思います。でも、ボディソープ市場にも大手がいます。
記事中にも、ボディソープ市場には絶対王者であるシェア約25%を占める花王の『ビオレユー』、シェア約15%を占めるユニリーバ・ジャパンの『ダブ』が挙げられています。両方とも資生堂ほどではないですが、大企業で競争相手として闘いやすいとは思えません。
この記事が本当なら
ボディソープって、ほんと価値の低い商品なんだな
さて、ライオンがボディソープ市場に参入する理由を改めてみると、以下の2点だといえます。
- ボディソープが低関与商品だから、新規客獲得コストが安い
- ライバルがしょぼい
もし、これが本当ならボディソープは、非常に価値のない商品カテゴリということになってしまいませんか?
なぜなら、
ボディソープは人から関心を持たれない『低関与商品』であり、低価格競争に陥りやすい。その結果、効果や中身はどれも代わり映えしなくなり、価格勝負のみになっていく。中身に特性がないために、さらに人は無関心になっていく悪循環に陥る。
さらに、無関心なので、人が能動的に調べることもなく、受け身による認識しかないために、テレビ広告などのマス広告を使う必要があり、広告費が増大。その結果、さらに、中身にお金をかけることができなくなる、から。
まさに、負の連鎖。
そして、ボディソープを販売している企業は、ヘアケア市場に比べるとショボイ。(資生堂のような超大手も、ボディソープを出しているんですけどね。)その結果、使う側のメリットは、『安価』であることのみで、中身や効果に関するメリットは低いということになります。
この記事が本当なら、『ボディソープ=安いだけの粗悪な商品』になってしまうんじゃないかと不安を感じました。この不安が解消されない限り、ボディソープは使いたくなくなりますね。
ライオンがボディソープ市場に力を入れる理由も不思議だったのですが、それ以上に不思議なのが、この記事にライオンが新発売するボディソープの特徴が一言も説明されていないことでした。
本来、ボディソープ市場が、関心の低い『低関与商品』であるなら、逆に消費者から見て関心の高い商品を開発すれば、一気にシェアを奪えます。 もちろん、ハードルは高いのですがわざわざ新しい商品を発売するならアリがちな商品を出しても意味がありません。
唯一、記事からその商品特徴を読み取れるものは、掲載されていた『写真』のみ。そのパッケージの前面には、びっしりと商品の特徴が書かれていました。ひときわ大きく表示されていたのは、『保湿成分が洗い流されないボディソープ』という文字です。
どうやら洗浄目的であるボディソープと相反する保湿効果を売りにしたもののようです。洗い流すことが目的なのに、洗い流されないとか、もう論理が破たんしています。なんでわざわざこんなことするかな~?もしかしたら、この矛盾がウリなのかな~?使う人から見て、この矛盾ってメリットになるのかな~?せっかく開発したのになんで中身に触れないのかな~?
私も化粧品やトイレタリーの開発もしますが、根本的に、商品を生み出す視点が違うように思います。もちろんこの雑誌の特性もあるかとは思いますが、私のような零細企業の経営者には、大企業の考えることは疑問だらけです。
投稿日:2017.06.23